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広島高等裁判所岡山支部 昭和44年(行コ)2号 判決 1973年3月12日

控訴人

須江利雄

右訴訟代理人

藤原修身

外七名

被控訴人

津山市長

生末敏夫

右訴訟代理人

松岡一章

外四名

主文

原判決を取消す。

被控訴人が昭和三六年一二月一八日付で控訴人に対してした免職処分を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一、本件訴が適法であるかについては、当裁判所の判断も原審と同様にこれを適法とするものであつて、その理由については原判決の該当部分<編注、別紙一に訂正部分も含め掲裁)を引用することとし、被控訴人が津山市事務吏員(市民課市民係長)の控訴人を懲戒処分(免職)に付し、その理由とするところは、被控訴人主張の事実があるものとして、各控訴人の行為が地方公務員法三二条、三三条、三五条、三七条一項、地方公営企業労働関係法附則四項、同法一一条一項に反し、地方公務員法二九条一項二、三号に該当するとの見解により同条一項によつたというものとすることは当事者間に争いがない。

二、そこで、まず被控訴人が主張する事実すなわち控訴人の行為の有無について検討することとなるが、この点についての当裁判所の認定は、次のとおり訂正、付加する外、原判決の認定と同一であるので、これ<編注、別紙二に訂正附加部分も含め掲載>を引用する<訂正附加の指示部分および証拠判断省略>

三、そうすると、控訴人の前記行為は被控訴人のいう法条に一応該当するものといえるが、当時は控訴人が執行委員長に任じていた津山職組が給与改定、年末手当支給等の要求を掲げて、いわゆる超勤拒否等による年末闘争を行つていた時期であつたことは当事者間に争いがないところであるので、控訴人が組合員とともにした行為は争議行為の一環として行われたものであるというべきであり(被控訴人の本件処分もこれを前提としている)、労働基本権との関連および前認定事実に関する控訴人の反論があるので、以下順次考察することにする。

(1)  控訴人は、地方公務員法三二条、三三条、三五条等は本件につき適用すべきではなく、同法三七条一項、地方公営企業労働関係法一一条一項は違憲である、旨主張する。

地方公務員法三二条、三五条の規定は職務上の規律を定めたものと認められる。ところが、地方公務員の組織する労働組合が争議行為を行つている場合には、職務を全面的に停止することもあるので、かような場合には前記法条を平常と同様に適用することができないことはいうまでもない。しかし、本件においては、前記のとおり、津山職組は超勤を拒むに止まり、時間内の勤務を全く放棄しているものではない。従つて、津山職組所属公務員も服務中は、前記法条の適用があり、ただ右職組の個別的な指令があり、これが上司の命令と相反するような場合等において、前記法条の適用の有無、適用があるとしても修正すべきか等を検討することを要するにすぎない、というべきである。

地方公務員にあつても、憲法の規定する労働基本権が保障されるべきことはいうまでもないが、公務員については、一般私企業における労働者とは相違して、その職務の公共性からする制約も免れないところであり、ただ右憲法の趣旨に従つて、労働基本権の制限は、労働組合の争議行為が国民生活に重大な障害を与える場合に、これを防止するため止むを得ない必要最小限度の合理的範囲に止められるべきであるとともに、これに違反した者に対して加えられる不利益も必要の限度をこえぬよう規定され、運用されなければならないものである。

そうすると、前記三七条一項、一一条一項の法条も、形式的にその法文の字義にそくして解釈すべきものではなく、前段の見地に立ち、地方公務員が行なう国民(住民)生活に重大な障害をもたらす不当な争議行為だけに関するものを規定したと解するのが相当であり、この趣旨において同法条は違憲とはならないものというべきである。

(2)  そこで、すすんで二、に認定の事実における控訴人の行為が地方公務員法等の禁止する争議行為に該当するか、同法三二条等を適用すべきかについて考察する。

本件休日振替命令発令の経緯、控訴人らの行為による事務の停滞等については、当裁判所の認定も、次のとおり付加する外、原審の認定と同一であるので、原判決の該当部分<編注、別紙三に付加部分を加えて掲載、証拠判断省略>を引用する。

右休日振替命令の適否につき当事者間に争いがあり、その対立点の一は黒瀬守ら自動車運転手につき労働基準法三三条三項の適用があるかということにある。同法条は公務のために臨時に必要がある場合には、同法八条一六号の事業に従事する公務員には休日労働をさせることができるというものであり、右規定はいわゆる非現業公務員について公務の特殊性から、一般労働者と区別して、設けられたものであり、右に公務員とは右趣旨からして単純な労務に従事する公務員は含まれないものと解するのが相当である。そして黒瀬守ら自動車運転手は単純な労務に従事する公務員に当ると認められる(被控訴人もこれを前提として控訴人の一二月一〇日の行為につき地方公営企業労働関係法附則四項等を適用している。なお、同法適用により廃止となつた昭和二六年政令第二五号「単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員の範囲を定める政令」八号参照)ので、「津山市職員の勤務時間及び休日、休暇等に関する条例」の定めにかかわらず、労働基準法三六条の協定が結ばれていないことにつき争いのない本件では、本件休日振替命令は違法なものと認定する。

しかし、右振替命令が違法であることから、ただちに控訴人のこれに関する抗議行動等がすべて適法となるものとはいえず、この点はなお全体的評価を要するものといわねばならないので、結局前記禁止の対象となる争議行為に含まれるか否かとの評価と一括して検討することとする。

本項二、三段認定の事実に弁論の全趣旨を綜合すると、本件控訴人らの行為は、津山職組が超勤拒否闘争中に、本件違法な休日振替命令が発令されたことに基因するものが大部分であること、右振替命令は主として失業対策労務者の稼働日数を増加することに目的があつたことが認められる。

以上の次第では、控訴人の本件行為中ビラ貼付と控訴人個人の職場離脱とを除く行為については地方公務員法三二条、三五条等を適用すべきではなく、同法三七条一項、地方公営企業労働関係法一一条一項に該当の有無を論ずべきものであるところ、これが津山市民に相当の不便を与えたことは否めないものであるが、争議行為の相対性(違法命令に対する抗議)を考慮するとき、その程度が重大なものとして、右三七条一項等の禁止する不当な争議行為に該当するまでには至らないものと認められる。

しかし、ビラ貼付および控訴人個人の職場離脱については、争議行為とはいえず、職務上の規律に服すべきものと認められるので、前記地方公務員法三二条、三五条および同法三三条、二九条一項二、三号の適用があるといわねばならない。

この点につき控訴人は離席する場合の慣行を主張し、<証拠>によれば、津山市役所においては、職員が席を立つときは同僚に用件等を伝えておくよう指導されていることが認められるが、同時に長時間席を離れるときは監督者の許可を受ける方針であることも認められ、被控訴人が、前認定(引用部分の原判決二、(一))のとおり、度々警告を発している本件においては、右主張を採ることはできない。

四、以上の次第で、被控訴人の本件懲戒処分については一部根拠のあるものであるが、懲戒の種類については軽い戒告から免職まで四段階あるところ(地方公務員法二九条一項)、前認定の経過および<証拠>により認められるところの、津山市の本庁舎、新庁舎と建設課庁舎の状態およびその位置関係を綜合するとき、被控訴人が控訴人を最も重い懲戒免職処分に付したことは、裁量の範囲を逸脱し、酷にすぎるものとして、取消を免れないと判断する。

五、したがつて、控訴人の他の主張を判断するまでもなく、その請求は正当として認容すべきものであるところ、原判決はこれと相違するので、民訴法三八六条、九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(辻川利正 小湊亥之助 永岡正毅)

(別紙一)

原告の本件取消訴訟は、その出訴期間の点について、昭和三七年一〇月一日施行の行政事件訴訟法の附則第四条に基づき、いまなお行政事件訴訟特例法(昭和二三年法律第八一号)の例によるべきであるが、同法第二条によれば処分に対する所定の審査請求をなした後三ケ月を経過しても、なお裁決がない場合はこれがあるまでいつでも出訴しうる旨規定していると解釈するのが相当であるところ、原告が昭和三六年一二月一八日に本件処分を受け、昭和三七年一月一九日に津山市公平委員会に対し、右処分に対する審査請求をなしたことは当事者間に争いがなく、同年一二月一二日当裁判所に対し本件訴を提起したことは本件記録に徴して明らかであり、その間該請求について裁決がなかつたことは弁論の全趣旨により認めうるから、本訴は適法になされたものであると言うほかはない。

(別紙二)

<証拠>によれば、

(一) 被告は自らまたはその意を受けた訴外片岡、津高、橋本各課長らを通じて職員組合の執行委員長であつた原告ら組合三役あるいは職員全体等に対し、書面や口頭または携帯マイクや庁内放送により、被告主張どおり(編注一)の各通告をなし(なお、訴外片岡、津高、橋本各課長らが被告主張どおり(編注一)の役職に在職していたこと、昭和三六年一一月二五日付庁達第七号なる文書が同日頃組合員らに配布されていたことについては当事者間に争いがない。)、勤務時間内に職場集会を行わないよう、あるいは、現に勤務時間内に行われている職場集会や集団行動を止めて、直ちに各人の職場に復帰するよう、あるいはまた、上司の許可なく職場を離脱したり、無断で庁内にビラを貼つたりしないよう命令し、もしこの命令に違反する行為があれば処分を加えるなどの警告を与えていたこと、

(二) それにも拘らず原告は

1 昭和三六年一一月二五日午前八時二〇分頃から市庁舎玄関前に組合員らを集め、職場集会を開いた際(右職場集会を開いたこと自体は当事者間に争いがない。)、被告主張どおり(編注二)約一〇分間勤務時間内にくい込んで右集会を続けたこと、

2 同年一二月九日朝、前日午後五時頃、前記橋本建設課長が同課の運転手である訴外黒瀬守ほか二名に伝えた、翌日九日の土曜日を休んで一〇日の日曜日に出勤するようにという、いわゆる休日振替命令を違法だとして、これに抗議すべく被告主張の場所に主張どおり(編注三)の組合員らを附和随行させ、同人らをその職場から離脱させたこと(なお、訴外黒瀬守なる職員、同山本正人なる組合員がいたことは当事者間に争いがない。)、

3 同月一一日朝八時二〇分頃から市庁舎玄関前に組合員約六〇名を集め、職場集会を開いた際、被告主張どおり(編注四)、約一〇分間勤務時間内にくい込んで右集会を続け、引続き午前一〇時三〇分頃、原告らが各職場に復帰するよう指示を出すまで、被告主張どおりの場所にその主張どおり(編注四)の組合員らを集合させ、その間同人らをして各職場を離脱させたこと、

4 同月一〇日午前八時三〇分頃、建設課車庫附近において、前記の休日振替命令に従い日曜日である同日出勤して自動車を運転しようとしていた前記黒瀬守に対し、先に今日は日曜日だから仕事をしてはいかんと指示していた原告武地と一緒になり、車の運転を止めて組合書記局に待機するよう命じ、同人をして仕事に就くことを断念させ同書記局に同道させたこと、

5 市役所庁舎内にビラや壁新聞の類を貼付するには、被告の庁舎管理権限に基づいてこの事務を分掌している人事課長の同意を得、その指示に従つて貼付しなければならないが、津山職組の宣教部や、建設課を中心とする各職場のリーダーや組合員らは、前記庁達第七号等の指示を無視し、右の許可を得ることなく、同組合の行つていた年末闘争を支援するため、「わからなければ教えてやる課長!」と題するビラを初め、管理職を誹謗したり、要求事項をならべたり、右闘争に協力するよう呼びかけたり、物価高を訴えたりした内容のビラや壁新聞等を、建設課を初めとして市庁舎内の壁、天井、柱、戸口等所構わず多数貼付し、津山市側でこれらを剥いでも剥いでも次々に貼付したこと、原告はこれらの事情を十分知つておりながら、右闘争を盛り上がらせるため、敢えてこれを阻止しなかつたこと、

6 いずれも勤務時間中である、イ同年一一月二八日午前一〇時四〇分頃から正午頃まで、同日市役所三階議場で県の給与担当者が出張して開かれた人事院勧告実施説明会に、上司に無断で出席し、その際片岡人事課長から勤務時間中だから職場に戻るよう、もし聞きたければ休暇手続をとれと忠告されながら、それに従わなかつた、ロ同年一二月八日午後一時頃から同五時まで、ハ同月一二日午前八時三〇分頃から正午頃までそれぞれ組合書記局において組合の仕事をなし、更に前記一二月九日行つた抗議行動に際して、いずれも定められた方法により上司の許可を得ることなく職場を離脱したこと、

以上の諸事実が認められ、<証拠判断省略>。

(編注一) 被告市長は組合ないし組合員の違法行為を阻止するため、次のとおり、自ら、またはその命を受けた津山市の人事課長片岡賢治、総務課長津高克己、建設課長橋本勝之助、人事課長補佐下山甃二らを通じて、津山職組の執行委員長たる原告ら組合三役、組合員に対し、

イ 同年日一二月二六日津人第一八二号の書面により、

ロ 後記(2)のイの(イ)の時間内職場集会につき、その前日である同月二四日津人第一八五号

により、当日同第一八七号の書面の交付もまじえ前記片岡課長において午前八時三五分頃および同三七分頃の二回口頭により、

ハ 同月二七日、同月二五日付の庁達第七号の書面により、

ニ 同月二九日津人第一九〇号の書面により、

ホ 後記(2)のイの(ロ)の職場離脱につき、同年一二月九日午前八時四〇分頃から同一二時頃までの間、前記片岡、津高、橋本各課長らにおいて再三口頭により、

ヘ 同月一一日、(イ)後記(2)のイの(ハ)の時間内職場集会につき、前記片岡課長においてそれぞれ、午前八時三四分頃口頭、続いて津人第二〇二号の書面交付、同三七分頃携帯マイク放送により、(ロ)右職場集会に引続き行われた集団職場離脱につき、被告市長、前記片岡、津高各課長らにおいて、午前八時四五分から同九時四五分頃までの間、再三再四口頭により、片岡課長において津人第二〇二号の書面の交付をまじえ同九時三一分頃携帯マイク放送により、同九時三三分頃庁内放送により、

それぞれ勤務時間内の職場集会や職場離脱を禁止し、職場へ復帰するよう等各通告をなしたにも拘らず、

(編注二) 原告は (イ) 同年一一月二五日朝市庁舎前に組合員らを集め職場集会を開いた際、就業開始時刻の午前八時三〇分から同四〇分頃までの間、勤務時間内にくい込んで右集会を続け、

(編注三) (ロ) 同年一二月九日朝から、津山市役所内の前記片岡人事、橋本建設各課長の席ならびに応接室附近に、訴外山本正人ほか約四〇名の組合員を附和随行させて職場から離脱させ、

(編注四) (ハ) 同月一一日朝、市庁舎前において、前記山本正人ほか約六〇名の組合員を集め職場集会を開いた際、就業開始時刻の午前八時三〇分から同四〇分頃までの間、勤務時間内にくい込んで右集会を続け、引続き多数の右組合員らを前記応接室および附近の廊下や前記橋本建設課長の席近辺に集合させて職場から離脱させ、

(別紙三)

<証拠>によれば、被告は1、建設課失業対策係の所管である失業対策について、失業対策労務者の年末手当の支給基準を有利にしてやるため日曜日も就労させる必要があつたので、右係の職員に休日勤務命令を、また右の就労のため同課の車輛を使う必要があつたので、事前に都合を当つたうえ右三名の運転手に同年一二月八日五時頃休日振替命令を各発したものであること、2、また、一二月二〇日頃までに駅前広場の整備工事実施に要する申請手続をさせるため、同課土木係の技師訴外田原清資に、年内に災害復旧工事の申請手続をさせるため、同係のその他の職員に、それぞれ土曜日の午後の時間外と日曜日に各出動するよう命じたことが認められ、その他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

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